2016年12月08日

地質時代 2016年4月第7号

平成28年熊本地震

Screenshot_1

 

今回の地震で亡くなられた方々のご冥福を祈るとともに、今もまだ、苦しい避難生活を送られている方々に、お見舞い申し上げます。

熊本地震の特徴は、第一、震度7が連続発生したこと。第二、86kmにわたる断層帯にそって広範囲に発生している事。第三、震度7が2回、6が5回、5が10回と大きな余震が続いていること。で、いずれも前例のない地震であり、正しい評価は、現段階では難しいようです。

地震の命名について

今回の地震は、「平成28年熊本地震」と気象庁が発表しましたが、気象庁の命名基準は、①陸域ではM 7.0以上震度5弱以上。②顕著な被害(全倒壊100棟程度以上)、③群発地震で被害が大きかった場合。名称の付け方は、「元号+地震情報に用いる地域名+地震」ですが、これとは別に政府が命名する場合があります。

気象庁命名「平成7年兵庫県南部地震」⇒政府命名「阪神・淡路大震災」
気象庁命名「平成23年東北地方太平洋沖地震」=政府命名「東日本大震災」
自然現象としての単なる地震ではなく、地震によって甚大な被害を蒙った事実を忘れないために「○○大震災」という名称は必要であるし、歴史にしっかり刻む必要があると思います。

地震の所轄機関はどうなっているのか?

  1. 気象庁(国土交通省外局):震度速報(震度3以上)、震源の情報、津波情報、各地の震度など
  2. 地震調査研究推進本部(文部科学省):行政施策に直結すべき地震の調査研究の責任体制を政府として一元的に推進するための機関。
  3. 地震予知連絡会(国土地理院):国の機関、大学等で進められる観測成果の集約と発表。
  4. 産総研地質調査所(経済産業省):地質調査のナショナルセンターとして地質情報の整備。

地震メカニズムについての機関は会計監査院あたりで交通整理すればもっと機能的になるかもしれない。他方で、災害対策にあたる機関もまた、自治体・自衛隊・警察・消防がその都度連携しているだけで、緊急物資の配分などSNSで各人が自然発生的に行っているのはいかがなものだろうか?地域コミュニティーの連携、情報集約と素早い初動活動のできる体制が望まれる。

関東地方の活断層と首都直下地震

Screenshot_2

1. 関谷断層(那須塩原、塩谷・M 7.5)
2. 内ノ龍断層(栃木県西部・M 6.6 )
3. 片品川左岸断層(群馬県北部・M 6.7 )
4. 大久保断層(前橋、桐生、足利・M7↑)
5. 太田断層(桐生、太田、千代田・M6.9)
6. 長野盆地西縁断層帯(M 7.4~ 7.8 )
7-1深谷断層帯(高崎、東松山・M 7.9 )
7-2綾瀬川断層(鴻巣、伊奈、川口M 7 )
8. 越生断層(越生町・M 6.7)
9. 立川断層帯(青梅、立川、府中・M7.4)
10. 鴨川低地断層帯(鴨川、富山町・M7.2)
11. 三浦半島断層群(三浦半島中南部・M6.6)
12. 伊勢原断層(愛川町、伊勢原、平塚・M7 )
13-1塩沢断層帯(山北町、御殿場・M6.8)
13-2平山-松田北断層帯(開成町・M6.8)
13-3国府津-松田断層帯(大井町・M6.8)
14. 曽根丘陵断層帯(笛吹、甲府・M 7.3 )
15. 富士川河口断層帯(富士宮、静岡・M7.2)
16. 身延断層(身延、富士宮・M 7 )
17. 北伊豆断層帯(箱根、湯河原、伊豆M7.3)
18. 伊東沖断層(M 6.7 )
19. 稲取断層帯(河津、伊豆大島西方沖・M7 )
20. 石廊崎断層(M 6.9~ 7 )
21.糸魚川 -静岡構造線断層帯(M 7.7)

2012年東京都防災会議は「首都直下地震等による東京の被害想定」の報告書を発表していますが、発表当時はかなりインパクトがありましたが、5年もたつとすっかり忘れていました。今度の地震でもう一度記憶に焼き付け、できうる防災対策で備えましょう!

地質時代 2015年4月第6号

玉川上水今昔物語

江戸は一日してならず

Screenshot_1

 

地質時代1号で、徳川家康は江戸入府に先立って、1594年~1654年に「利根川東遷」での関東平野の治水事業の実施を紹介しました。これに先立 つ1590年、家康は大久保藤五郎に水道の見立てを命じ、藤五郎は、小石川上水を作り上げたと伝えられています。その後、1629年には、井之頭池や善福 寺池・妙正寺池等の湧水を水源とする神田上水が完成。南西部では赤坂溜池を水源として利用していました。

1609年頃の江戸の人口は約15万人(スペイン人ロドリゴの見聞録)でしたが、3代将軍家光の時、参勤交代の制度が確立すると、人口増加に拍車がかかり、既存の水道では足りなくなり、新しい上水の開発が日程に上りました。

1652 年、幕府は多摩川の水を江戸に引き入れる計画を立てました。工事の総奉行に老中松平伊豆守信綱、工事請負人は庄右衛門と清右衛門兄弟に決定。水道奉行に伊 奈半十郎忠治が命ぜられました。1653年4月4日着工し11月15日に羽村取水口から四谷大木戸まで素掘りが完成。全長43km、高低差92mの緩勾配 です。180m/日の驚異的進捗率です。

翌年6月には虎ノ門まで地下に石樋、木樋による配水管を敷設、江戸城はじめ、四谷、麹町、赤坂、芝、京橋一帯に給水しました。兄弟は褒章に玉川の姓を賜り、200石の扶持米と永代水役を命ぜられました。

明治になると、末端の木樋に汚水が流入し、しばしばコレラが大流行するようになり、浄水場で原水ををろ過し、鉄管を通じて加圧給水する近代水道の建設が急務 となりました。1898年12月、玉川上水を導水路として、代田橋付近から淀橋浄水場までを結ぶ新水路を建設、神田、日本橋方面に給水を開始しました。1965年には、利根川の水が東京に導かれ、淀橋浄水場は廃止。玉川上水は導水路としての役割を終えました。1984年には、清流復活事業の一環で、昭島市の東京都下水道局多摩川上流再生センターで処理された再生水は、高井戸を経緯し、神田川に合流しています。

2012年、新宿区は、新宿御苑の北を走る国道20号線のトンネル上部に「玉川上水・内藤新宿分水散歩道」の供用を開始しました。水路の水源は、この地下トンネルの地下水をポンプアップして利用。ヒートアイランド現象の緩和にも期待されています。

Screenshot_2

関東地方の活断層

Screenshot_3

1.関谷断層
2.内ノ龍断層
3.片品川左岸断層
4.大久保断層
5.太田断層
6.長野盆地西縁断層帯
7-1深谷断層帯
7-2綾瀬川断層
8.越生断層
9.立川断層帯
10.鴨川低地断層帯
11.三浦半島断層群
12.伊勢原断層
13-1塩沢断層帯
13-2平山-松田北断層帯
13-3国府津-松田断層帯
14.曽根丘陵断層帯
15.富士川河口断層帯
16.身延断層
17.北伊豆断層帯
18.伊東沖断層
19.稲取断層帯
20.石廊崎断層
21.糸魚川-静岡構造線断層帯

地質時代 2014年11月第5号

浦安液状化判決の本質

10月8日と31日、浦安市で発生した東日本大震災での液状化被害の損害賠償裁判が、相次いで一審、住民側敗訴の判決が下されました。

8日の裁判では、三井不動産が1981年以降に行った分譲地に対するもので、判決は「住宅の販売時( 1981年当時)に液状化を予測するのは困難だった」と判断しました。また、三井不動産が研究者の報告をもとに、液状化に有効とされる工法をとっていたことも挙げ、「対策が不十分だったとは言えない」としました。

31日の裁判では、やはり、三井不動産が2003年~2005年にかけて分譲した土地に対するもので、判決は、「揺れる時間が数十秒の通常の地震が想定されていた」と指摘。「今回のように2分も続く地震は、当時の知見では予測不可能だった」として、業者側の責任を否定しました。
住民側にとって、まったく気の毒な判決となりました。判決の趣旨は、「当時は科学的に自然現象を予測できなかったのは、過失ではない。」ということであります。しかし、科学は常に発展しているとはいえ、自然現象が常に新しい課題を提起するのであって、決して科学が自然に追いつくことはないことは明白です。しかも、法律は自然科学のはるか後ろをゆっくりと歩いています。したがって、自然現象に起因する災害被害の行き着く先は「想定外」という聞きなれた言葉に収束していきます。今回の2例の判決の本質は、福島原発と同じ問題が提起されているように思われま
す。

現代社会において、日本人が初めて液状化現象を意識したのは、1964年の新潟地震でした。この時から、液状化を考慮した構造物設計指針の導入が始まりました。以下、概観します。

 

Screenshot_1

 

Screenshot_2

 

これでも「想定外」は付きまとうでしょう。さらに火災や倒壊を考慮すると、暗澹たる気持ちになります。しかし、それでも、人々は立ち上がり、復興してきた姿を見るとき、本当の財産と防災は、地域住民の絆、共同体の力以外にないように思われます。

建築家の格言と作品

フランク・ロイド・ライト(1867~1859)

アメリカの建築家 代表作:旧帝国ホテル新館、カウフマン邸(落水荘)、山邑邸、ユニティ教会
若い時は、不倫や放火殺人に巻き込まれるスキャンダラスな人生。70歳代で代表作を作り上げた。長く生きるほど、人生は美しくなる。

Screenshot_3

 

Screenshot_4

 

ミース・ファン・デル・ローエ(1886~1969)

ドイツの建築家 代表作:バルセロナ・パビリオン
20世紀モダニズム建築を代表する建築家。バルセロナチェアー(椅子)のデザインでも有名。
より少ないことは、より豊かなこと。
神は細部に宿る。

Screenshot_5

 

Screenshot_6

 

ル・コルビュジエ(1887~1965)

フランスの建築家 代表作:サヴォア邸近代建築の五原則(ピロティ、屋上庭園、自由な平面、水平連続窓、自由な立面)を体現。
住宅は住むための機械である。

Screenshot_7

 

Screenshot_8

 

アントニオ・ガウディ(1852~1926)

代表作:サクラダ・ファミリア
芸術におけるすべての回答は、偉大なる自然の中にすべて出ています。ただ、私たちは、その偉大な教科書を、紐解いていくだけなのです。・・・世の中に新しい創造などない、あるのはただ発見である。

ヴァルター・グロピウス(1883~1969)

代表作:メットライフ・ビルディング
専門家とは、いつも同じ間違いを繰り返す人たちのことである。

ルイス・カーン:

創造とは、逆境の中でこそ見出されるもの

ルイス・サリバン:

形式は機能に従う

フンデルトヴァッサー:

直線に神は宿らない
自然に存在するのは曲線のみで、定規で引いたような直線を徹底的に拒否した。

地質時代 2014年10月第4号

9月27日11時52分、秋の登山客で賑わう御嶽山が突如噴火、12名が死亡した。生存者の話では、山頂近くにいた人々は、山小屋や神社の庇に避難する1~2秒差で生死を分けたという。アッという間に火山灰が積もり、呼吸困難に。また、降ってきた石で頭が陥没した人、子供の「苦しいよう」という言葉に父親がはげます声が、やがて聞こえなくなるなど、まさに地獄絵が展開された。

Screenshot_1

 

翌28日(日曜日)、火山噴火予知連絡会拡大幹事会が開催され、御嶽山噴火の検討が行われた。メンバーは国立大学、国土地理院、気象庁、国交省など。検討結果は、水蒸気噴火であったことが確認された。また、噴火7分前に山体が膨張する現象、火山性地震などが観測された。また9月上旬に一旦、火山性地震が増加したがその後は沈静化しており、火山課長は「前兆をとらえ予知するのは難しかった」と語った。

世界の活火山の7%が日本に集中している。ちなみに、活火山の定義は「概ね過去1万年以内に噴火した火山及び現在活発な噴気活動のある火山」と定義され現在110ある。さらに、2009年6月には、今後100年程度の中長期的な噴火の可能性及び社会的影響を踏まえ、「火山防災のために監視・観測体制の充実等の必要のある火山」として47火山が火山噴火予知連絡会によって選定された。これらの火山では、地震計、傾斜計、空振計、遠望カメラ、GPS観測による24時間の観測体制がとられいる。御嶽山はこのひとつ。1~ 2秒で生死を分けたのであれば、7分あれば警報やサイレンでなんとかならなかったのだろうか?

Screenshot_2


米国土木学会選定の20世紀10大プロジェクト『関空』のギネス級地盤沈下

Screenshot_4

 

関西空港は、アメリカ土木学会の選定する20世紀の10大プロジェクトのうちの空港部門に選定されている。橋梁部門ではゴールデンブリッジ、高層ビル部門ではエンパイヤーステートビルの名があげられている。それだけすごい施設であるが、圧密沈下もすさまじく、建設以降最大14m以上も沈下しており、沈下量は少なくなっているが、まだ収まっていない。厄介なのは、Maと表示された海成粘土層でMa 1(最下部)~Ma 13(最上部)まで、13層の粘土層が500m近くまで分布し、各層で空港島の荷重を受け沈下している。Ma 13はサンドパイルの打設で沈下は収束したが、それはせいぜい20m程度。50年後も『関空』残っているのか?

 

地質時代 2014年9月第2号

広島市土石流災害の悲劇!

8月20日に発生した、広島市の土砂災害は、死者72名、行方不明者2名(8月29日現在)という悲劇をもたらしました。

国土交通省の調べでは、全国に土砂災害の危険個所に指定されているのは525,307個所にものぼるとのこと。今回被災した地区は警戒区域どころか危険個所の指定もなかった。行政は危険性を認識しつつも、対策工事を行う義務の発生に逡巡があったようだ。また、警戒個所としてハザードマップにのれば、不動産価格に影響があることもあり、住民説明での確認も必要になってくる。安全安心よりも経済を優先するこのような経済的背景が、被害を大きくした原因ではなかったのか?

 

Screenshot_1

 

Screenshot_2

上2枚の写真は、グーグルストリートヴューで見 た安佐南区八木3丁目付近の土石流前の町並み。奥 の山並みが不気味に住宅地を睥睨しているが、日本 のどこにでもありそうな雰囲気。もう一枚は、なん と住宅新築中の工事現場。被災の有無は分らない が、丘陵地の危険地域であることはまちがいない。 中の写真は、八木3丁目の被災状況。原形がまった くわからない。時速40kmで数千~十万トンの土 砂と水と材木と岩石が襲い掛かってきた。

下の写真は、安佐南区の八木地区と緑井地区の空中写真。 阿武山に裾野から這い登るように宅地開発が進んで いることがわかる。土肌が出ているところが今回、 土砂崩れを起こした個所。こうして、高い視点でみ ると如何に危険であったのか、いや、現在も危険で あることに戦慄を覚える。

われわれ地質調査業者 の責任は、このような高い視点で危険を喚起し続けることかもしれない。 ご冥福をお祈りいたします。

 

Screenshot_3

 

Screenshot_4

江戸トレジャーハンターで一攫千金・・・もとい、中央区へ提出へ

Screenshot_5

 

左の写真は、最近オープンした「コレド日本橋」の旧東急デパート新館跡地から発掘した18世紀中ごろの商家の遺跡です。小さくてわからないが、石組みの下水、木組みの下水、井戸、穴蔵、など遺構が多数出土した。とりわけ注目すべきは木組みの頑丈な穴蔵です。穴蔵とは、火事が多かった江戸の町で、頑丈な金庫がない時代、貴重な財産を地下に穴を掘って埋めることで守っていたとのこと。写真でみると、江戸時代の建物は現状地盤よりかなり低いところにあります。これは、度重なる火事や地震、そして空襲での瓦礫が堆積したもので、今回の大規模な再開発がないかぎり財宝が埋もれたままになっている可能性は非常に大きいと思います。

Screenshot_7

右写真は八丁堀2丁目の遺跡の便所跡から出土した天保一分金(時価32,000円也)

Screenshot_6

 

左図は、中央区でこれまで発掘された遺跡の地図です。ほとんど江戸時代の遺跡になります。これらは、建設工事の根伐り工事が契機に発見されることが多いようです。掘削工事でもしないと容易と発見できません。今、都心のビルの老朽化が進み、都からは厳しい耐震基準が指導されています。ビルの解体建て替えはこれからが本番。建設会社は江戸トレジャーハンターになるかもしれません。また、日本橋小伝馬町では伝馬町牢屋敷が発掘されました。安政の大獄で吉田松陰や橋本左内らが投獄、その他、平賀源内、高野長英、渡辺崋山、佐久間象山など歴史上の有名人が入牢してました。