コラム

地質時代 第14号 平成29年11月15日発行

祝!地球史にチバニアン当確
  地質というと、とかく地震や噴火などの負のイメージが強い中で、このニュースはなんとも明るいものです。これを発見した地質学者の熱意やその土台を築いた研究者たちの地道な積み重ねの賜物と思います。 地質学にはノーベル賞がないため『命名』こそ最高の賞かも知れません。これまで、あまりに学術的すぎていた地質区分が一挙に身近になった気がします。
 今回は地質と人間の歴史について調べてみました。
① 石器時代:どこに行けば加工に適した石や土の産出場所等の最初の地質への認識が生まれた。
② 青銅器・鉄器時代:鉱石を利用した金属製道具の作成=鉱物の性質の把握と加工技術の確立。
③ 四大文明:ナイル川、チグリス川・ユーフラテス川、黄河、インダス川がもたらした肥沃な土壌により農耕が発展。土壌のもたらす恩恵の利用。
④ ギリシャ哲学:レウキッポス、デモクリトス、エピクロス、ルクレティウスなどの唯物論哲学が演繹的な自然科学の扉を押し開けた。
⑤ ローマ時代:ローマ帝国の拡大のなかで広範囲な自然に対する認識が深まった。プリニウスの「博物誌」、スイトラボーは火山による山岳成因説、川の侵食作用などを考察した。セネカは火山を地球内部の溶けた物質が地表に現れたものとした。哲学が帰納法的認識の背景にあった。
⑥ ルネッサンス期:レオナルド・ダ・ビンチは芸術家であると同時に自然科学でも優れた実績を残した。湾曲した川の両岸における流速の違いと堆積物の研究、礫や地層の研究を行った。アグリコラは「鉱山書」の中で、探鉱術、冶金術、鉱床、鉱脈、断層について記し、「鉱物学の父」と呼ばれている。地質の法則性の発見へ。
⑦ 産業革命期:デンマーク人のステノは化石の研究から地層の生成を考察し「層位学の父」と呼ばれた。ウエルナーの水成論による層序の統一性の発見、不整合を発見したハットン、英国の地質図を作った「層位学の父」スミスなど。地質学における進化論の確立。
⑧ 現代:「人新世(アントロポセン)」の誕生。これは地質調査の報告書に地質区分を載せていますが、現在の地質時代は、17,000年前にはじまった、新生代第四期完新世という括りになります。しかし、この時代はすでに終わり、人類の活動が火山の大噴火に匹敵する地質学的な変化を地球に刻み込んでいることを現す新造語です。(まだ正式には認められていませんが)これは、オゾンホール研究でノーベル賞を受賞した大気科学者パウル・クルッツエンが提唱したもの。この時代は1950年から始まるとのこと。

魅惑的な粘土の歴史と未来

●土偶と土器(粘土を支配)
日本最古の土偶は、約1万2000年前のものとされ、三重県松阪市で見つかりました。土器は、700~900℃の温度の野焼きで作りました。世界最古の土器は、今から約2万年前のものとされ、中国の洞窟遺跡で発見されました。
●粘土板(記録装置として)
3750年前のメソポタミアでは、粘土で作った粘土板に、楔形文字を刻み、銅の塊りを買った人が売った人に対して、その品質の悪さに「この商品は粗悪品過ぎるので、お金を返せ」との手紙であることが分かりました。
●陶器と磁器(芸術文化として)
陶器の原料は土器と同じ粘土で、窯で1100~1300℃の温度で焼いたもの。光を通すことはなく、水を吸い、厚手で重く、叩いたときは鈍い音がします。日本の伝統工芸を代表する陶器としては、瀬戸焼、常滑焼、越前焼、信楽焼、丹波立杭焼、備前焼が知られ、これらは日本六古窯(ろっこよう)と呼ばれています。磁器は、粘土を含む陶石を砕いたものが用いられ、窯で1300℃程度の温度で焼いたものです。光を通すものが多く、水を吸いにくく、とても硬く、叩いたときは金属音がします。代表的は、伊万里焼、九谷焼などが知られています。

曜変天目茶碗(南宋12~13世紀)


●レンガと瓦(建設資材として)
建設に使われているレンガや瓦も、粘土で作られています。レンガは、紀元前4000年~紀元前1000年のころは、粘土を乾かしただけの日干しレンガとして誕生。した。瓦の歴史は古く、日本には588年に、百済から仏教と共に伝来したと言われ、奈良県にある飛鳥寺で初めて使われたとされています。現存する日本最古の瓦は飛鳥時代のもので、元興寺の極楽坊本堂と禅室の屋根の瓦です。
●高レベル放射性廃棄物の地層処分(核のゴミ)
原発の使用済み放射性廃棄物の処分は、地下深い安定した地層に封じ込める地層処分が、最もよい方法されています。その際には、ガラスと一緒に固め、金属製の容器に入れ、その周辺を粘土で覆うという方法がとられる予定です。地上から300m以上の深い所に処分し、10万年以上にわたって人間社会から隔へだて、影響を与あたえないようにします。
●水素の製造(未来のクリーンエネルギー)
水素を製造する一つに、太陽光と水とセラミックス光触媒を使う方法があります。このセラミックス光触媒に粘土が使われています。
●有害物質の分解(汚染の除去)
アロフェン粒子(粘土)と酸化チタンを混ぜ合わせて、有害物質を分解する技術が研究されています。
●皮膚の再生(安価な医療材料)
スメクタイトと呼ばれる粘土鉱物を用いて皮膚を再生させる技術が研究されています。皮膚の主成分であるコラーゲンや血管の形成、細菌を吸着し、皮膚が硬くなることを防ぐ効果があるとのこと。
●夢の粘土(資源として)
現在、レアアースのほとんどは、中国で生産されています。ところが、2011年に、小笠原諸島にある南鳥島沖の排他的経済水域の海底で、レアアース泥が発見されました。推定される埋蔵量は中国の30倍で、日本が必要とする量の300年分以上とされています。レアアース泥は、水深5000mより深い海底にあるため、船からパイプを海底まで降ろし、空気を送って、戻ってくる空気と一緒に採取する方法が考えられています。

300年分のレアアース泥が眠る南鳥島の海