コラム

世界最古の水道施設 エルサレム シロアム水路とビゼキアトンネル

2017年12月15日 地質時代第15号 1面

 

 トランプ大統領の首都移転宣言で大激震が起こったエルサレム。グーグルアースで覗くと、大きな川もなく岩盤質の地形になぜこんな宗教都市ができたのか調べてみた。  この地域は丘陵地帯で標高800mほど。雨季(冬)と乾季(夏)に別れ、年間降水量は600㎜程度の乾燥地帯。黄土色の荒野である。

 ここにキリスト教の『聖墳墓教会』=キリストが磔にされたゴルゴダの丘、ユダヤ教『嘆きの壁』=ローマ帝国に従属したユダヤのヘロデ王の神殿、イスラム教『岩のドーム』はムハンマドが立ち寄ったとされる岩が隣り合って存在している。  『旧約聖書』の『サムエル記』によれば、ユダヤのダビデ王はエルサレム攻撃の際「エプス人(先住民)を撃つものはすべて[ツィンノール]をもってせよ」と言ったと書かれている。これは、「ギボンの泉」と呼ばれる湧水で、今でも湧き出ている。この水源に至る地下トンネルから攻めあがったのかも知れない。カナン人は地下に隠した水源を要塞で覆って隠していた。その竪穴は発見者の名をとって「ウォレン・シャフト」と呼ばれている。  似たような場所がパレスチナ自治区にもあり「ギベオンの水槽」と呼ばれている。これは、粘土質の地盤に直径11m、深さ11mの穴を掘り、周りにらせん状の階段が作られている。  

 三代目ビゼキア王の時代、アッシリアが攻め込んできた。このアッシリアの脅威に対抗するため、ギホンの泉の水を、城内のシロアムの池まで引くトンネルを完成させた。ギホンの泉は、ダビデの町と向かい側のオリーブ山の間を分かつギドロンの谷にあり、その場所はダビデの町の崖下にあたる。当時、ギホンの泉からあふれ出る水は地表のシロアムの水路を流れてシロアムの池に流れ込んでいた。この水源を外敵から守るためにトンネルを掘りぬいたのである。 ヒゼキア王のトンネルは約2700 年前に建造された、現存する世界最古の水道施設の一つである。全長532m、勾配は0.4%、両側から掘りはじめ、北から1/3あたりで接合している。接合部では、両側から声を出しながら方向を調節したのか、坑道が左右にギザギザと屈曲している。このトンネルは現在も健在で、ギホンの泉は下流のシロアムの池に向って流れ続けている。

 この豊富な地下水なくしてエルサレムは歴史に刻まれる都市にはなりえなかった。日本人なら井戸の神様と称えるところだ。しかしフェニキア人の商才、古代ギリシャ哲学の一元論、エジプトの一神教が混ざり合い、古くはエジプトやローマ帝国、イスラム帝国に揉まれ、英国の三枚舌外交や米国のユダヤ資本(ロスチャイルドやゴールドマンサックス)に利用され続けるためには宗教を口実にしなければ存在できない都市がエルサレムなのだろう。