2018年4月15日発行 地質時代第19号 1面
大分県中津市耶馬渓町金吉で11日未明に起きた山崩れの現場を調べた国土交通省の専門家チームは11日記者会見し、雨の影響がなかったとみられるのに崩れた原因について、風化して亀裂が入るなどしていた岩盤が崩壊し、表層の土砂の層もろとも崩れ落ちたとの見方を示した。
耶馬渓の歴史
耶馬渓は、日本三大奇勝として名勝に指定されている。地質は新生代第四紀(258万8千年前から現代)の火山活動による凝灰岩や凝灰角礫岩、溶岩からなる台地の侵食が奇岩連なる絶景を生み出している。命名は1818年、頼山陽が中国風の文字をあて漢詩に詠んだのが起源。 江戸時代後期、羅漢寺の禅海和尚が中心になり参拝客の安全のためノミ一本でトンネルを掘りぬき、これが『青の洞門』と呼ばれる。これを素材に菊池寛は「恩讐の彼方に」という小説を著した。 人力で掘れるほどの岩盤なので風化しやすいことが伺える。
斜面崩壊のメカニズム
調査チームは「大雨で地下水が上昇し土砂の強度が低下することがあるが、何日か前に降った雨でこれだけの崩壊を引き起こすことは考えられない」と指摘。斜面の上部から地下にかけてある火山噴出物が固まった「溶結凝灰岩」などの基礎的な岩盤が「風化が進んで割れ目や亀裂が発達し、いつ崩れてもおかしくないくらいに強度が低下していたと考えられる」とした。 南から見た斜面崩壊の現場 産業技術総合研究所の石塚吉浩・火山活動研究グループ長によると、一帯は溶結凝灰岩が斜面の上部に、下部に安山岩などの地層がある。 防災科学技術研究所の地すべり分布図によると、現場周辺では過去に多くの地すべりが起きたとみられる。井口隆客員研究員は「等高線の形状を見ると、今回の現場でも過去に地すべりがあった可能性が高い」と話す。 警戒区域に指定されても住民にとっては、何時起こるかも知れない山崩れに対し、なすすべがない。専門家による科学的検証が待たれる。 赤い破線で囲んだ辺りで斜面崩壊が発生したとみられる。オレンジ色は土砂災害特別警戒区域、黄色は土砂災害警戒区域。