コラム

地質調査会社の選び方

ネット検索「地盤調査」では、「地盤調査専門会社」ではなく、「地盤改良工事会社」の地盤調査が上位ヒットします。なぜ、そうなってしまったのか?歴史をたどってみます。

地震年代地震名制度制定年代法律名
1923年関東大震災1924年市街地建築法改正(柱を太く、地震力)
1948年福井地震1950年建築基準法制定(地震に対応する強度)。
東京丸の内の第二電話局の地盤調査で初めて標準貫入試験を実施。
  1952年建築基礎構造基準(日本建築学会)
1964年新潟地震1971年建築基準法改正(木造にコンクリート布基礎を規定)
1978年宮城県沖地震1981年新耐震設計法(地震力に対する強度改正)
1995年阪神・淡路大震災2000年建築基準法改正(地盤調査の義務化)
  2001年品確法性能表示制度スタート
2011年東日本大震災  

 

1923年の関東大震災は地盤を科学的に解明するきっかけとなりました。復興庁が初めて組織的計画的に地質調査をはじめました。戦前の地質調査担当者は内務省などに籍を置く公務員が多かったようです。地盤調査の誕生は公共的必要性によるものです。当時は大地震から人間を守るという公的利益は、商業的利益とはあいいれないものだったからです。

終戦後の10年間は、建設省土木研究所、運輸省港湾技術研究所、国鉄鉄道技術研究所が地質調査の技術確立に大きな役割を果たしました。これらの研究所の技術発展とともに民間の地質調査も発展してきました。このような様々な研究の土台には、地質調査技術者の経験と技術は不可欠なものとしてありました。そしてそれらは民間の地盤調査会社が担うことになります。

1964年の新潟地震によって、液状化現象が注目され始め、様々な研究が開始され、地盤調査は広く浸透していくことになりました。

2000年までは、地盤調査専門会社は、主に官公庁の土木工事、建築工事、民間のビルやマンションの支持杭のための地盤調査を受注し発展してきました。この場合、ボーリング地質調査が主体でした。また、スウェーデン式サウンディングは、ボーリング地質調査の補完として実施されていました。

2000年の地盤調査の実質義務化と2001年の品確法制定により、戸建て住宅の地盤調査が本格化することになりました。飛躍的に増加した需要のために、地盤調査専門会社のスウェーデン式サンディング調査から、地盤改良会社によるスウェーデン式サウンディング調査が発展成長してきました。その要因としては、地盤調査費に比べ地盤改良費の金額が大きく、地盤調査費をサービスしても改良工事を受注しやすくなることにメリットを見出したからです。こうして、地盤調査が地盤改良の「おまけ」になってしまい、その公共性が利潤第一主義によってのみこまれることになりました。

さらに、地盤調査会社の体質がこのような現象に拍車をかけました。その体質とは、解析技術部門と現場調査部門の分割です。それは、高度経済成長期の終わりによって、もたらされました。長引く不況が現場調査部門を分割しなければ生き残れない状況が生まれたからです。現在ではほとんどの地盤調査会社は現場部門を持たず、協力会社、下請会、一人親方に依存しています。解析技術と現場技術が分断されることによって、現場部門は仕事を切らさないために価格競争を展開します。そして地盤改良会社が、スウェーデン式サウンディングを独占していきました。

建設物価2015年8月号のスウェーデン式サウンディングの単価は4,540円/mです。1現場5m×5ヵ所の標準的調査では25m×4,540円/m=113,500円になりますが、現状は、1現場18,000円~25,000円が相場のようです。そして、この調査費の格差を覆い隠すのが、地盤保険とかセカンドオピニオンと言われるものです。

地盤調査には、経験を積んだ技術者が必要です。現場の自然環境の観察、土の色、水位、先端から伝わる感覚、現場だけでなく、参考文献の学習、地学や土質力学の基礎的知識をもった一人の技術者によって分析判断されます。それゆえ地質調査の技術者は、フォアマンと呼ばれます。第一観察者という意味です。彼は、自分のもてる知識と経験でその現場を観察する最初の人間としての使命感と誇りをもって仕事に取組みます。日本で地盤調査が生まれた公共的役割とそれへの誇りが技術を磨いてきたからです。

ところが、最近のSDSという調査では現場での判断をさせず(現場の人間はどういう地盤かわからず)電波でデータを飛ばして、そこで判断するシステムだそうです。それは、もはや技術者ではなく、機械を使う作業員でしかありません。

たとえば、現場で、地盤調査技術者が、自分の感想や判断をいう。現場監督がそれを聞いて基礎施工時の留意点を確認する。このコミュニケーションこそ良い品質を保証する土台であると考えます。私たちは、そのような会社を目指しています。